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「行財政改革の新たな指針」に対する都庁職の見解と態度

2005年12月22日
東京都庁職員労働組合


はじめに
 東京都は11月29日「行財政改革の新たな指針」を発表した。四つの章から構成され、第1「時代変革の潮流と都政改革の方向性」、第2「自治制度の改革〜東京発自治論〜」、第3「行財政システムの改革」、第4「今後の改革の進め方」となっている。今年3月には国の「地方行革新指針」が発表され、今年度中に各自治体が「行政改革の指針」を策定することを義務づけている。また6月の「骨太方針2005」では、従来日本経団連など財界が主張してきた「小さな政府」を明確に打ち出した。経済財政諮問会議は「行政サービス」の民間開放を促進させるために総人件費削減を押しつけ、団塊の世代退職時代を絶好のチャンスとして、公務員定数を徹底的に削減し、公的責任を放棄する「官から民」の流れを国と自治体に求めている。
 東京都はこのような財界戦略に基づく公的責任の放棄、構造改革路線の先駆的実行を公言し、二次にわたる都政改革アクションプラン、財政再建推進プランを策定し、都政リストラを推進してきた。今回発表された「行財政改革の新たな指針」は従来の都政版「構造改革」をさらに強行、推進する目的で策定されている。
 都庁職はこれまでも都の行財政改革=二次にわたる「財政再建推進プラン」「都庁改革アクションプラン」などに対して、見解と態度をその都度明らかにしてきたが、今回発表された指針が質・量ともに従来の枠を大きく超えた問題の文書となっており、改めて「都庁職見解と態度」を明らかにするものである。

1.「行財政改革の新たな指針」の概要

第1  「時代変革の潮流と都政改革の方向性」
(1) 指針策定の基本認識
中央集権・官治の統治システムに代わり、地方の自主・自立と「公」を多様な体が担う、21世紀型の新たな行財政システムを構築する。
(2) 都民・国民が直面する時代変革の潮流
急速な少子高齢化など社会経済環境の構造的変化が一層進行していく中、今後とも首都圏への人口や諸機能の集積が進んでいく。
(3) 都が進めてきた先駆的取組
都はこれまで、「東京から日本を変える」という考えの下、国に先んじた改革や先駆的取組を展開してきたとして「財政再建推進プラン」「都庁改革アクションプラン」、認証保育所制度の導入などをあげている。
(4) 都政をめぐる新たな展開
ここ数年、地方自治を取り巻く状況が激変するとともに、行政運営の抜本的な改革を促す、新たな経営改革手法の制度化が急速に進んでいるとして、道州制議論、特別区制度調査会提言や指定管理者制度、地方独立行政法人制度などをあげている。
(5) 都政改革の方向性
都市の自治の担い手は誰かという、21世紀における自治のありかたの原点を踏まえ、東京発の自治論を発信する。「公=官」ではなく、「公」を多様な主体が担うという考え方の下、都が担う仕事の範囲と進め方を徹底して見直し、「スリムで仕事ができる効率的な都庁」を実現するとしている。
第2   「自治制度改革〜東京発自治論〜」
(1) 自治制度改革の方向性
国と地方の役割分担、基礎的自治体と広域自治体の役割分担の明確化、大都市の役割を明確に位置づけた自治制度を構築すべきとしている。
(2) 広域的な行政課題の解決
道州制については、地方分権を推進し大都市の役割を明確に位置づける視点から、議論を進めていくことが重要である。
(3) 東京における大都市自治制度のありかた
「都区制度」は、今日変革が求められているとして、都(広域的自治体)が今後とも東京における「都市経営主体」としての役割を果たしていくのか、それとも特別区(基礎的自治体)が都に代わってその役割を果たしていくのか議論が必要である。そして特別区が大都市経営の主体となるとすれば、現在の23区は行政の一体性を確保出来るかたちに変わらなければならないとしている。
(4) 都として今後検討すべき課題
国と地方の役割分担、基礎的自治体と広域自治体の役割分担、「都区制度」の抜本的見直し、大都市経営の主体などについて検討を進めるとしている。
第3   「行財政システムの改革」
(1) 原点に立ち返り官民の役割分担を見直す
1.  行政分野の民間開放
民営化、民間移譲、公営企業や監理団体についても新たな経営改革手法の導入に伴う一層の経営改革を進める
2.  多様な経営改革手法の導入
18年度に、官民が競いあう「東京都版市場化テスト」のモデル事業を選定・実施する。現在直営で行っている公の施設を対象に計画的な指定管理者制度の導入、公権力の行使に関する補助的業務についても民間委託の推進や人材派遣の活用を進める。地方独立行政法人制度のさらなる導入を検討する。
3.  公営企業改革
独立採算を原則とする設置趣旨や官民の観点から、最もふさわしい経営のあり方を検討する。
4.  監理団体改革
指定管理者制度の導入など団体のあり方や事業についてゼロベースで見直す。
(2) 新たな都庁マネジメントを構築する
1.  都庁マネジメント機能の強化
経営の戦略性を高めていくため、知事本局・総務局・財務局の機能と連携を強化する。
2.  執行体制の見直し
組織の簡素化、試験研究機関の業務運営の抜本見直し、そして都と監理団体の人件費を抑制するため、職員定数の削減と達成状況を一体的に示す。
3.  人材育成を基軸に据えた人事管理
少数精鋭化のため、採用から配置監理まで、あらゆる局面で人材育成を基軸に据えた人事管理を徹底し、東京から新たな公務員のあり方を発信するとしている。
4.  都有財産の利活用の推進
はぎれ地の処分
5.  入札・契約制度の見直し
談合などの不正行為には厳正に対処することにより、公正な競争の確保を図る。また電子入札の進展を踏まえた一層の競争性の確保など、入札・契約制度の改善を図るとしている。
6.  業務運営の効率化
IT化の推進や民間的視点から業務改善を進めるため、事業成果を客観的指数で把握する手法や民間経営手法を積極的に導入するとしている。
第4   「今後の改革の進め方」
(1) 自治制度改革については、引き続き「東京自治制度懇談会」において、道州制を含む広域自治体のあり方や、東京における大都市制度のあり方などについて平成18年度中を目途に検討を進める。
(2) 年内に重点事業の18年度の取組やその後3ヶ月の展開・方向性を明らかにした「重要施策2006(仮称)」を公表し改革の着実な実施を図る。
(3) 行財政改革については、年度内に「東京都人材育成方針(仮称)」、平成18年7月を目途に「今後の財政運営の指針(仮称)」とこれらを踏まえて今後3年間の「行財政改革実行プログラム(仮称)」を作成するとしている。

2.「行財政改革の新たな指針」に対する都庁職の見解


(1) 「指針策定の基本認識について」では、都政執行における「公」の役割、責任論を展開しているが、そこには日本国憲法の規定・精神や理念が全く欠落している。都の基本認識では、「公」なり「官」なり、国・地方自治体が行ってきた行政システムは「統治」のシステムと位置づけている。「統治」とは「主権者」が国土や人民を支配することを意味するが、日本国憲法は、国民主権を明確に規定し、すべての国民に人間として生きる権利を保障し、それを実現する役割を国と地方公共団体に義務付けている。都の基本認識はこのように「憲法」を基準に分析すると根本的な誤謬を持っている。経済状況の変化、少子高齢化などを理由に「統治システム」の歴史的な転換が必要であると導いている。しかし、日本社会と日本をめぐる国際環境が変わっても、行政が国民に負う責任は変わらない。結局指針によって提起されている「21世紀型の新たな行政システム」は、国民・住民に「受益と負担」の関係の明確化など「自立・自助」を押し付け、都政が公的責任を放棄する「行政の民間開放」を推進することの宣言に他ならない。東京都が一自治体として自主性を発揮することは、憲法の趣旨からも当然であるが、「自治制度」のありかた、すなわち「地方自治の本旨」は、社会経済の発展等で変化するものではない。東京都は「都民こそが主人公」であるという原則的な理念、都民の福祉の増進につながる行政責任を負っていることを忘れてはならない。
 憲法に規定されている「地方自治の本旨」に基づき、21世紀にふさわしい都民本位の都政を「都政改革の基本認識」として明確にし、都が負わなければならない行政執行を「公共分野での民間の役割」として民間企業の儲けの手段にせず、「民主的かつ効率的な行政執行」を基本に必要な人員の確保、必要な財政支出を行うことこそ真に求められている。
(2)  「改革の方向性」では、「『公』を多様な主体が担う」という考え方で「スリムで仕事ができる効率的な都庁」の実現をめざしているが、基本的にはこれまで繰り返し明らかにされてきた「認識」をまとめたものとなっている。
(3) 「自治制度改革〜東京発自治論〜」では石原流の「大都市の役割」と、東京発の独自性を強調し、「国の発展を牽引する」役割を標榜しているが、東京港を中心とする経済発展の必要性の強調など日本経団連・奥田ビジョンが打ち出した財界要求実現の方向に沿ったものとなっている。さらに「広域的な行政課題解決」では「道州制」を「大都市の役割を明確に位置づける観点」として展開していく事を明らかにしている。いずれにしてもこれまでに財界が主張し、小泉構造改革がめざしている「国と自治体のかたち」を変質させるものとなっている。「東京における大都市自治制度のあり方」では、特別区のあり方にまで言及しており、従来の自治権拡充とは逆行する議論が展開されている。平成18年度を目標に「東京自治制度懇談会」において検討を進めるとしているが、今指針によって方向付けしているものと言える。
(4) 財政システムの改革」については、行政執行を民間に開放する流れを強め、「小さくて効率的な政府」論にのっとった少数精鋭主義の「都庁マネジメント」「執行体制の見直し」「人材育成を基軸に据えた人事管理」などを提起している。さらに「多様な経営改革手法の導入」として、平成18年度に官民が競い合う「東京版市場化テスト」のモデル事業を行うとしている。特に職業訓練分野など法令により民間開放が困難とされてきた事業に関して、法改正を行ってまで官民を競わせようとする「市場化テスト」は、官の民間への開放を一瀉千里に実行しようとするものに他ならない。また、「多様な経営改革手法の導入」の中で「民間開放した事業について行政のチェック機能を充実するため効果や安全を検証するなど都独自の評価のしくみを構築する」としているが、これまでの様々な民間移譲された事業の検証と反省がまったく見られないことは問題である。
 すでに都庁職は、2004年9月「都政リストラのバイブルNPMは日本をどこにもっていくつもりか」(都庁職発行冊子)や、2005年9月開催NPM集会の基調報告で明らかにしているが、「PFI」「指定管理者制度」「地方独立行政法人の導入」「市場化テスト」などのNPM手法を使ったリストラは、国や自治体の行政責任を放棄するための手法として厳しく批判してきた。「新たな指針」はこの方向をさらに押し進めようとするものであり断じて容認できない。
(5)  「今後の改革の進め方」は「地方行革指針」に基づく方針の策定スケジュールが明らかにされているが、来年7月までに策定される「行財政改革実行プログラム(仮称)」は、都民・職員の意見や要望を無視したトップダウンによって各局で具体化される可能性が懸念される。

3.都庁職の態度

(1)  都庁職は都政が憲法で規定している「地方自治の本旨」実現に向けた都民本位の都政確立に大きく転換することを運動の中心に据えて闘ってきた。本指針は、都政の果たすべき役割を放棄し、都民の財産を民間企業に提供し、都民サービスを後退させることは明らかであり、全面的に反対の立場をあらためて表明するものである。
 「骨太方針」に代表される「官から民へ」の攻撃は、国や自治体が公的責任を放棄することであり、行政責任で行わなければならない業務を民間に行わせ、民間企業が新たな儲けを見いだす事業に変質させてはならないと主張するものである。JR西日本の大惨事や耐震構造の偽造問題などの「規制改革民間開放」は、市場原理、競争原理などルールなき資本主義のもとで、人の命や安全よりも企業の利益を優先する実態が明らかとなった。
 都庁職は、憲法を守り都民が安心して生活できる東京であり続けるために、石原反動都政と対決し、真に地方自治体としての役割を果たし得る執行体制の確立を要求する。
(2)  都民の納めた「税」が、多国籍企業などの事業が展開しやすいように、大企業を優遇した施策に重点的に配分されていることは大きな問題である。都庁職は、福祉・医療・教育・雇用など切実な都民要望に応える予算編成とする為に、都民サービスの最前線で働く組合員が日常的業務を通して積み上げた「都庁職2006年人員・予算要求」に応えるよう強く求めるものである。
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