うつ病は一般的に「心の風邪」と言われているほど、多くの患者さんが病院やクリニックを受診しているのです。最近の研究によると、一生のうち男性の１１〜１３％、女性の１５〜２１％がうつ病に罹患することが報告されています。
　特に現代社会においては遺伝要因が強い内因性うつ病に比べてストレスが大きな原因となる心因性うつ病の増加が顕著です。特に、多くの仕事を遂行し、周囲からも期待され、大きなストレスにさらされうつ病を発症する、ハイパフォーマーな方のうつ病が増加している現状は、ストレス社会の象徴的な現象です。
　そこで、今回から４回に分けてうつ病のメカニズムや症状、治療方法についてわかりやすく解説したいと思います。
　第１回目はうつ病の典型的な症状についてです。一般的にうつ病の症状として意欲の低下や喜びと興味の喪失、食欲や性欲の減退、不眠などが知られています。
　しかしながら私が精神科医を仕事にしていると「憂鬱な気分による落ち込みとうつ病による落ち込みはどこが違うのですか？」とよく尋ねられます。確かに誰でも、仕事で期待された成果を上げられなければ落ち込みますし、恋人にふられれば食欲もなくなります。そんな時に私がこんな答を皆さんに差し上げます。
　・宝くじで１００万円当選したときに「今までは良いことが無かったけど、やっぱり神様は自分を見放してなかった。１００万円を何に使おうかな♪」と考えられるのであれば、それは憂鬱な気分による落ち込みである。
　・「何でこんな仕事の出来ない俺に１００万円当たってしまったのであろう。この先もっと悪いことが起こるに違いない。」と考えてしまうのはうつ病による落ち込みである。
　つまり、余程の大金持ちでもない限り１００万円が当たれば嬉しいし、ウキウキします。
　しかしながら、その喜びを味わえないということは正常の認知機能が障害されている可能性が高いのです。そのような場合には、早めに心療内科や精神科の医師に相談してみてください。うつは心の風邪です。休養と受診、服薬が風邪をこじらせない第１歩なのです。

（産業医の立場から　　筑波大学吉野　聡）