2024年東京都人事委員会勧告に対する都庁職の見解と態度
2024年10月24日
東京都庁職員労働組合
1 はじめに
10月18日、東京都人事委員会は、都議会議長及び都知事に対し職員の給与に関する勧告・報告(意見)及び人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)を行いました。
給与に関する報告では、例月給については、民間給与が都職員給与を10、595円(2・59%)上回っているとし、1級の初任層に重点を置きつつ、一般職、監督職及び管理職において職務の級の職責差を給与へ一層反映させる観点から、各級においてメリハリをつけた上で、全級全号給について引上げ改定を勧告しています。例月給の改定は、4月に遡って行うとしました。また、特別給については、期末手当と勤勉手当でそれぞれ0・10月引上げ、再任用職員については、期末手当と勤勉手当でそれぞれ0・05月引上げるとしました。
昨年に引き続き全級全号給の例月給及び特別給の引上げ勧告となりましたが、この間の大幅な物価高騰に見合った大幅賃上げを求めている私たちの期待を裏切る不当な勧告であり、到底容認できません。特に、この間賃金抑制を強いられ続けている中高齢層職員にとっては、各級の高位号で0・3%程度の低率・低額の改定となっており、物価上昇に全く追いついていない改定額は到底納得できるものではありません。
2 2024年人事院勧告及び他団体の状況
(省略)
3 東京都人事委員会勧告の内容と問題点
1.例月給の較差と給料の改定
職員給与の報告と勧告では、本年4月における都職員の平均給与が408、830円であるのに対し、民間給与実態調査による民間従業員の平均賃金が419、425円であったとして、例月給の公民較差を10、595円(2・59%)としました。このため、給料表の引上げ改定を4月に遡って行うとし、1級の初任層に重点を置きつつ、一般職、監督職及び管理職において職務の級の職責差を給与へ一層反映させる観点から、各級においてメリハリをつけた上で、全級全号給について平均改定率2・7%の引上げ改定を行うとしました。
今年の春闘では、連合最終集計で5・10%と33年ぶりの高水準の賃上げが報告されていましたが、人事院の勧告では民間春闘結果を大きく下回る2・76%となり、東京都人事委員会の勧告では国すらも下回る較差2・59%となりました。私たちの期待に全く応えない、不当な勧告であると言わざるを得ません。また、人事委員会が資料として示している民間賃金の地域差について、全国を100とした時の東京都の指数が116・7となっていますが、全国の水準で給与比較して定められているはずの国家公務員と東京都職員の指数では、国家公務員を100とした時に100・5としかなっていない点も、果たして精確に東京都の民間従業員の賃金水準を反映しているのか甚だ疑問です。
さらに、各級においてメリハリをつけた改定として、1級、2級の最低改定率が0・3%であるのに対し、3級では0・8%、4級では1・4%としている点も、職責・能力・業績主義の強化が伺える内容であり問題です。
2.初任給
初任給の改善については、T類B(大卒)29、300円、U類(短大卒)29、300円、V類(高卒)27、900円引上げるとしましたが、昨年に引き続き今年も大幅な改善がなされた国家公務員の大卒総合職の初任給と比較すると、I類Bでは初任給が4、500円下回っています。また、人事委員会が示した民間給与実態調査での新卒事務員・技術者平均と比較しても、約6、700円下回っています。私たちは、民間や国家公務員と比較して低い水準となっている初任給について、速やかに引上げて格差を解消するよう求めてきましたが、今回の改善では人材確保の観点からも、不十分であると言わざるを得ません。
3.特別給
勧告では、特別給の民間支給月数が4・85月であり、都の現行4・65月を0・20月上回っていることから、都職員の年間支給月数を0・20月引上げ、4・85月とするとしています。特別給0・20月の引上げは約8万円の年収増となります。特別給の引上げは、民間従業員の特別給における考課査定分の割合等を考慮し、期末手当と勤勉手当で均等に配分することが適当であるとしています。特別給の引上げは、今年度は12月期の期末手当と勤勉手当をそれぞれ0・10月分(再任用0・05月分)、2025年度は、6月期、12月期の期末手当と勤勉手当を0・05月分(再任用0・025月分)ずつ引上げるよう勧告しました。
都人事委員会の資料では、特別給の支給状況は1、000人以上の企業で年間5・18月であり、私たちの要求からすれば、0・20月の引上げでは到底納得できる内容ではありません。また、今回の勧告で特別給の引き上げ分を期末手当と勤勉手当に均等に配分したことは一定評価できますが、すべての職員の生活改善が急務である現状からすれば、すべてを期末手当に配分するべきです。さらに、再任用職員の年間支給月数について、定年前の約半分という水準の改善がなされず、引き上げ幅も定年前職員の半分である0・10月分となっている点も非常に不満のある内容です。
4.諸手当
地域手当について、人事委員会は「都においてはこれまで区部・多摩地域は地域の連続性・一体性等に着目し同率の支給割合に設定しており、その状況に変化はないことから引き続き一律20%とすることが適当である」としつつ、「その他の地域については、国との均衡や都における改定の経緯を踏まえ、地域の区分に応じて支給される関連手当も考慮し、所要の調整を行うことが適当である」としています。人事委員会の言う「その他の地域」とは、都外や島しょ地域が想定されますが、今後、「その他の地域」と区部・多摩地域の処遇格差を解消していく必要があります。
扶養手当について、人事委員会は手当額については民間事業所における家族手当の支給状況を考慮しつつ、制度については国との均衡を図ってきたとし、配偶者(パートナーシップ関係の相手方を含む。)に係る扶養手当を廃止し、子に係る手当額を13、000円に引き上げることを勧告しています。しかし、民間給与実態調査では、配偶者に対する家族手当を見直す予定はない(検討も行っていない)事業所割合は71・2%となっており、民間の実態を踏まえれば、配偶者に係る扶養手当の廃止を勧告することは拙速だと言わざるを得ません。
通勤手当について、人事委員会は人事院の勧告を踏まえて、都においても人材確保や働きやすい職場環境の整備が求められていることから、通勤手当の支給限度額を新幹線等の特急料金等の額を含めて1か月あたり150、000円に引き上げ、この支給限度額の範囲内で新幹線等を利用する場合の特急料金等の額についても全額を支給するよう改正することが適当であるとしました。また、人材確保や人事配置の円滑化を図る観点から、採用時から新幹線等に係る通勤手当及び単身赴任手当の支給を可能とするよう改正することが適当であるとしました。
在宅勤務等手当について、人事委員会は在宅勤務を中心とした多様な働き方をより一層推進していき、職員一人ひとりが多様な働き方を選択できる職場環境を整備していくことが求められる中、在宅勤務等手当を新設し、本手当の額及び支給要件については国に準じることが適当であるとし、本手当の支給に当たっては、通勤手当に関し所要の措置を講ずることと勧告しました。
5.再任用職員の給与
勧告では、極めて不十分ながらも全級全号給での給料表の改定が行われ、再任用職員の給料月額についても、1級では2、400円、2級では2、800円の基準額の改定がありました。特別給は、0・10月分の引上げを期末手当と勤勉手当へ均等に配分しています。これにより、年間の期末手当は1・40月、勤勉手当は1・15月となり、特別給に占める勤勉手当の割合は、44・9%から45・1%に増大します。再任用職員の勤務形態は約9割がフルタイムで、仕事も正規職員と同様になっています。無年金期間が拡大しているにも関わらず、その賃金水準は改善されていない状況が続いており、生活できる大幅引上げが求められます。再任用職員の賃金水準は、60歳前の約6割という低い水準であり、抜本的な改善がなされるべきです。
6.今後の課題
都人事委員会は、職員の給与に関する報告の今後の課題として、「「職務給の更なる進展等」「能力・業績を反映した給与制度の更なる進展」「新たな給与制度の在り方についての検討」を上げています。
「職務給の更なる進展等」では、本年の給料表の改定に当たっては初任層に重点を置きながらも、職務の級の職責差を給与へ一層反映させる観点からメリハリのある給与改定を行なったとし、引き続き、職責の給与への反映を徹底するため、あるべき給与制度について研究・検討を行っていくとしています。また、国における「給与制度のアップデート」の措置内容を踏まえ、都における管理職に係る職務やその職責等を改めて検証し、これに見合った給与水準、給与制度について研究・検討を進めていくとしています。
「能力・業績を反映した給与制度の更なる進展」では、これまで都人事委員会は職員の能力・業績の給与への反映を基本とし、成績率や昇給制度について言及してきたとし、昇給制度については、昨年度の管理職員に続き、今年度より一般職員においても、勤務の成績に基づく下位区分の見直しを実施しており、さらに本格的な定年の引き上げが始まっていることから、定年引き上げの影響も含めたその運用実態の分析を行うとともに、国における状況も注視しつつ、能力・業績が反映された給与制度となるよう研究・検討を進めていく必要があるとしています。
「新たな給与制度の在り方についての検討」では、定年の段階的な引き上げに合わせて、60歳を超える職員の給与水準は、当分の間の措置として7割に設定されているが、定年引き上げが完成した後は、60歳前後での給与水準が連続的になるよう、人事院が進める検討状況を注視するとともに、都の定年引上げ等に伴う任用実態の変化や民間における高齢層の給与の状況などについて継続的に把握し、新たな給与制度の在り方に関する研究・検討を進めていくとしています。
7.人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)
都人事委員会は、多様な人材の確保・育成・活躍の推進の「人材確保・育成に向けた取組」の中で、採用試験の申込者数が都では10年前の3分の1程度の水準まで落ち込んでおり危機的状況であるとし、都庁の魅力が求職者や学生に広く深く認識されるよう、ターゲットごとに効果的な情報発信・コミュニケーションを重ねることが有効であり、任命権者と連携して、学校訪問を通じたPRやホームページ、広告媒体、SNS等を活用した情報発信により、広く人材を求めていく必要があるとしています。
しかし、新規採用者の応募が減少しているのは、単に都政の仕事について理解されていないというだけではなく、現在の都政の職場が、長時間労働や民間賃金を精確に反映していない低賃金など、働きがいのある魅力ある職場となっていないことが原因です。魅力ある働きがいのある職場を実現するために、当局は都労連要求に応えるべきです。
採用制度の検証について、特に、応募者数の減少が顕著な技術職をはじめ、多様で有為な人材を着実に確保していくため、経験者採用の拡大など、採用市場の状況に迅速かつ的確に対応した柔軟な採用制度となるよう見直しを進めていく必要があるとし、その他各採用区分において目的に適った人材確保ができているか、採用された人材が各職場で活躍できているか等を検証し、時代に即した採用制度の在り方や任用の方法について任命権者と検討していくとしています。
昇任制度の見直しについては、この間見直しを行なってきた主任級職選考や専門課長の拡充などについて触れ、制度改正の効果検証を行い改善を図っていくことや、管理職制度の在り方について検討を進めていく必要があるとしています。
人材育成の推進について、今後、団塊ジュニア世代の大量退職が待ち受けており、将来的な職員数の減少に備え、先端技術の活用等により、効率的かつ生産性の高い持続可能な執行体制を構築していくことが重要であるとしていますが、人材交流の更なる活発化や海外主要都市等への派遣拡充など、その効果に疑問のある取り組みによるキャリア形成について述べられています。
「女性の活躍推進」では、育児・介護等と仕事を両立しやすい管理職選考への見直しや、女性管理職を対象としたキャリアに関する不安の解消等を目的とした研修等の取り組みの拡充など、職員のキャリアアップを組織全体で後押ししていくことが必要であるとし、また、これらを実効性あるものにするために、職員一人ひとりが性別等によるアンコンシャス・バイアスの存在を自覚した上で、その意識を見直し、お互いを尊重する職場風土を醸成することが重要であるとしています。
「誰もが活躍できる都庁の実現」では、心理的安全性やその理解を深めながら、様々な個性や価値観・事情が尊重・配慮され、全ての職員が活躍できる魅力ある職場を実現していく必要があるとしています。また、障害を有する職員の継続的な活躍のためには、個々の障害に応じた配慮と理解が不可欠であり、本年度改定される「障害者活躍推進計画」をもとに、取組を着実に推進し、障害を有する職員にとって働きやすい職場づくりに努めていくことが必要だとしています。さらに、労働力の確保が一層厳しい状況になっていく中、豊富な知識や経験を持つ高齢層職員の活躍がなくてはならないとし、環境の変化に的確に対応できるよう、職場での新たな立場における役割やコミュニケーションなどについて、研修で理解を深めるとともに、オンデマンド学習コンテンツによるDXの知識やスキルの習得といったリスキリングの実施により業務スキルの維持向上を図ることが重要としています。しかし、そのような役割を望む高齢層職員に対して、抜本的な賃金水準の改善をすることもなく、給与改定も低率・低額としている人事委員会の勧告は、ダブルスタンダードであり極めて不当だと言わざるを得ません。
8.働き方改革と勤務環境の整備
働き方改革と職員の勤務環境の整備では、ライフ・ワーク・バランスの推進、長時間労働の是正、男性の育業等の取得促進・介護を行う職員への支援、職員の勤務環境の整備などについて報告しています。
ライフ・ワーク・バランスの推進では、時差勤務・フレックスタイム制・テレワーク等を組み合わせた柔軟で多様な働き方の推進について、制度利用を希望する職員が利用しやすい職場環境を醸成していくことが必要であるとしています。また、育児・介護事情等を抱える職員ライフ・ワーク・バランス実現に向け、民間労働法制の改正の動向や本年の人事院勧告による育児・介護と仕事との両立支援の動きなどにも注視しながら、更なる支援策の検討を行っていくことも必要としていますが、交代制勤務職場や直接処遇の職場など全ての職場・職員のワーク・ライフ・バランスの推進のための具体的な方策については言及されていません。
長時間労働の是正として、人的資源が限られる中で、都庁全体のDXの推進により、業務の効率化を積極的に進めていくことで長時間労働を是正することが不可欠としています。また、都議会定例会等への対応については、現在の慣行や運用が長時間労働に繋がらないよう、都議会の理解と協力の下、更なる見直しを進めていくことを望むとしていますが、昨年まで記載のあった人員の配置に関する言及がない点については、後退していると言わざるを得ません。都庁職としても毎年超過勤務縮減に関する要求書を提出し、当局に改善を求めているところですが、長時間労働は慢性化し、一向に改善されない状況が続いています。業務量に見合った人員配置を求めるとともに、さらに踏み込んだ対策を求めていく必要があります。
男性の育業等の取得促進・介護を行う職員への支援については、現状についての記載と都のこの間の取組を評価するにとどまり、踏み込んだ意見はありませんでした。育児休業等により常時勤務を要する職員の欠員が生じた際の欠員補充の対策として臨時的任用職員制度について触れられていますが、現場からは引き継ぎ等の期間を設けられない点や登録者に適切な人材がいないなどの理由から使いづらい制度であるという声が上がっています。職員が安心して子育てや介護をできる職場環境の整備に向けた具体策が求められます。
職員の勤務環境の整備として、ハラスメント防止対策では、ハラスメントが人権に関わる重大な問題であり、組織としてハラスメントを防止し、根絶する強い意志を持って取り組むこと、カスタマー・ハラスメントについては、都の条例制定を踏まえ、組織で対応するための体制整備などに取り組むことが必要であるとしています。また、職員の健康保持については、精神疾患を理由とする長期療養者数が増加傾向にあると指摘し、一次予防・二次予防・三次予防の取り組みの充実と、ストレスチェックについては、受検勧奨を行うとともに、集団分析結果を活用した職場改善に効果的に取り組むことが肝要であるとしています。
4 都庁職の態度
都庁職は、東京都人事委員会勧告に向けて、大都市東京に暮らす職員の生活実態を踏まえて、全ての職員の生活改善につながる、物価の高騰を上回る大幅賃上げを求めて、都労連指令に基づく全組合員を対象とした人事委員会要請署名、職場一斉宣伝行動、ステッカー闘争などに職場・支部をあげて取組んできました。
今回、東京都人事委員会は、例月給については公民較差を10、595円、2・59%とし、1級の初任層に重点を置きつつ、一般職、監督職及び管理職において職務の級の職責差を給与へ一層反映させる観点から、各級においてメリハリをつけた上で、全級全号給について平均改定率2・7%の引上げ改定を行うとしました。その「メリハリ」により、行(一)1級の105号給以上、2級の76号給以上の改定率は0・3%となり、給与カーブのフラット化が一段と進み、昇格しないと昇給できない、職責・能力・業績主義の強化が伺える内容であり問題です。特別給は0・20月引上げ、期末手当と勤勉手当に均等に配分と勧告していますが、この間の急激な物価高騰に対応するため大幅な賃金引上げを望む私たちの期待を裏切り、国家公務員の較差11、183円を下回る、大都市東京の民間賃金実態を精確に反映していない極めて不当な勧告です。また、公民較差の算出にあたって実施した民間給与実態調査の完了率も62・0%と、国の82・5%と比較しても非常に低いうえに、その較差算出過程における数値が全く不透明であることからも、結論だけの勧告内容に不信感を持たざるを得ません。
特別給について、この間私たちが期末手当での支給を強く求めてきたにもかかわらず、期末手当と勤勉手当で均等に引上げるとしたことは、職員の能力・業績を給与へ反映させることを狙いとしており、都人事委員会が「職責・能力・業績主義」の徹底を図る都側に加担する不当な内容です。また、民間給与調査結果で示されている企業規模1、000人以上の支給状況が5・18月であるにも関わらず、4・85月の勧告に止まっている点も不満です。
本年の報告では、私たちが求めていた、長時間労働の是正や職場環境の改善などについて、具体的な意見の申し出はありませんでした。報告の内容も、全体的に当局の主張に沿ったもので、都労連・都庁職の要請に応えない不当なものであり、中立・公正な第三者機関の役割と責任を放棄していると言わざるを得ません。
都労連は、不当な勧告と意見の押し付けを許さず、労使交渉による大幅賃上げと都労連要求の実現に向け全力で闘うとしています。
都庁職は、都政の現場で働く全ての組合員が生活を維持し、誇りをもって働ける処遇改善を実現するために、職場・支部・分会からの運動を基軸にして取組を進めていきます。
2024年秋季年末闘争において、都労連各単組の統一と団結を固め、要求実現に向けて都庁職の総力を上げて闘う決意です。
以上
|