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伊ヶ谷地区海上より見る三宅島
伊ヶ谷地区海上より見る三宅島 撮影2003年4月10日三宅支庁提供
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都庁職新聞
 
東京の未来を育む都庁職組合員の仕事

 

 都庁職員は、業務を通じ現在の都民生活を支えていますが、東京の未来を育む役割も担っています。
 新年号は、そうした2つの職場を訪問取材した特集です。

 

【特集その1】福祉保健局支部の職場「萩山実務学校」

 萩山実務学校は、二か所ある都立の児童自立支援施設の一つです。児童福祉法で「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童」が入所する施設と位置付けられ、子どもの状況に応じて必要な指導を行い、自立を支援しています。また、退所した子どもにも相談その他の援助を行っています。一人ひとりを大切にしながら、子ども達が生活の中で自分自身を見つめなおし、社会で生きて行く力を身に付けられるように、職員の皆さんが24時間365日奮闘されています。
 福祉保健局支部の樋口支部長と萩山実務学校を訪ねて、分会長の清水さんと組合員の関さんにお話を伺いました。

 

育ち直しを手伝っていく

編集部(以下「編」) 「児童自立支援施設はどんな役割の施設ですか」
清水さん 「一言で言えば、子どもの育ち直しを手伝う施設です。育て直しではありません。子供たちは、望まぬ巡り合わせの中で、様々な生きづらさを抱えて入所してきます。入所時には成長意欲や生きる意欲を低下させてしまっている子供もいます。私たちの仕事の基本は、安心安全な環境を整え、子供自身が主体性をもって自らの存在を肯定できるよう支援することだと思います。
 「生徒の日常生活を教えて下さい」
清水さん 「寮で起床して朝食、登校して午前中は授業五時間、寮に戻り昼食です。再度登校、月〜木は午後に授業二時間、金曜日は三時間。寮に戻ってからはお風呂、掃除、夕食、学習の時間や自由時間を過ごして就寝です」
 「寮は男女別なのですね。クラブ活動や学校行事などもあるのでしょうか」
清水さん 「約30年前まで男子のみの施設でしたが、現在は女子寮もあります。授業の一環で月、水、金に二時間のクラブ活動があります。男子は、野球、サッカー、剣道。女子はブラスバンドです。行事は、林間教育や運動会などもありますよ。12月には収穫祭という大きい行事があります。各寮の代表者が「私の収穫」というテーマで、自分自身の成長したことを作文で発表します。とても意味のある良い行事です。その後餅つきをして、午後には全員でレクという楽しい行事でもあります。こうした行事は、施設と学校で相互に協力して運営しています」
 「生活面では食事も大切だと思いますが」
清水さん 「食育にも力を入れています。教育、福祉だけではなく、調理部門の活躍が子供の生活の安定に果す役割は大きいです。ご飯はとてもおいしく、子どもたちには好評です。日常の食事だけではなく、行事や旬に合わせ郷土料理や外国の料理、子どもの希望に合わせた誕生日メニューも作ります。焼き肉の希望もあれば、お刺身の希望もある。バケツプリンなんて楽しいリクエストもありますね。寮に出向いて調理する出張調理は、お寿司やてんぷら、ステーキ、とんかつ、ピザなどを楽しんでもらいます。クリスマスや年末年始の特別料理も素晴らしいですよ」
 「保護者との関係再構築や卒業後の進路や生活面の自立も支援していますね」
清水さん 「支援をする上で大切なのは、ここで全て解決できるものではないという職員の認識です。子供は、十数年の生活や経験を踏まえて、ここに来ます。つまり実際はやれることは限られています。重要なのは、子供が自分自身で抱えている困り感に気付け、支援をうけて安心感をもてるようになることだと思っています。本来、子供たちがもっているはずの困難を解決するための相談力・表現力、相談先を見つけ出す力を、どう引き出せるかが大切だということです。つまりは、自分の人生を引き受ける勇気を持てるように支援していくことが大切なのではないでしょうか。
 家族関係の再構築は児童相談所と協力して行います。萩山実務学校で生活することで、子どもと家族が、お互いのことを冷静に考える時間を作れることに意味が出てきます。ここでは、子どもにありがとうという気持ちと言葉をシャワーのように伝えます。そして自己肯定感、自己効力感を育む。社会に守られている実感が無ければ、規範意識を持つことができない訳ですから」

 

児童相談所とも役割分担
生活の中で自立を支援

 「心理士としての関さんの仕事を教えて下さい」
関さん 「主な仕事は、子どもへの個別の心理面接、行動観察、他職種との連携です。高年齢児童に対し退所後の生活に役立つよう社会スキルに関する授業も実施します。行動観察は、生活の様子に入って、ある意味で黒子みたいな存在になって関わっていきます。当然、気にしてしまう子もいますので、無理には関わりません。各寮に定期的に訪問したり、各行事などの様子を見させてもらったりもあります」
 「個別の心理面接はどのようなものですか」
関さん 「入所直後の心理面接は必須(2回)ですが、その後の生活では個別面接は、本人が希望した場合に行うことが原則です。施設側から働きかけをすることはありますが、本人のニーズに基づいて、子どもの支援となる心理面接を行っています」
 「機微な情報に関わる大変な仕事ですね」
関さん 「心理の仕事と、生活が直ぐに繋がらないことも多いし、伝わっている手ごたえを感じることが難しいこともあります。振り返りや意識の定着、積み重ねが困難なこともありますが、家族関係を取り扱う児童相談所と役割を分担し、生活に近い関係ならではの役割を果たしていると思います」
 「仕事へのやりがいはどんな風に感じていますか」
関さん 「卒業式は、自分自身に向き合った子どもが次のステージに進むのを見て、関われて良かったなーと感動しますね。私達の仕事は、子どもとの信頼関係の構築などという主観的な満足ではなく、関係構築が困難に子どもに、振り返りを支援できたり、一定の安心感を形成できり、もっと客観的な安心安全な生活を提供したりする積み上げが重要です。心理も、ォも、学校も、全体で協力して少しずつ安心を提供して、その中で卒業を迎えることが大切です」

 

会計年度任用職員にも常勤職員との均等待遇を

 「関さんは、会計年度任用職員ですね」
関さん 「心理士の配置は、現在は常勤職員一人の定数に会計年度職員が三人の合計四人です。しかし現時点では、会計年度職員は二名分が欠員状態になっています。私は月十六日勤務で、会計年度任用職員の標準的報酬額で働いており、収入は年間三百万円に届きません。そのため、民間の養護施設でダブルワークです」
 「処遇面では大変な苦労をされていますね」
関さん 「収入の補完だけではなく、現場で子どもに関わりたい、知識を深めたい、経験を得たいという思いもありダブルワークをしていますが、東京都の心理職の常勤職員の枠は増やして欲しいです。専門職の心理士が職場に定着することは、施設にとっても大切だし、子どもにも大切だと思います」
樋口支部長 「福祉局全体でも、会計年度任用職員は定着が難しい実態があります。欠員の補充も、応募が少ないこともあるようです。来年度、会計年度任用職員への勤勉手当の支給が決まりましたが、処遇は抜本的に改善することが必要です。勤務日数を踏まえた常勤職員との均等待遇は当たり前です。希望する人への常勤職員への転換試験制度なども必須になっていると思います」
 「児童自立支援施設の将来について教えて下さい」
清水さん 「『非行児童が入所する所』というイメージを持たれる施設ですが、実際は被虐待、発達障害等の影響を受け、生きづらさを抱えた子供たちが暮らす場所です。そうした入所児童の変化やニーズに対応できる設備と人、体制が必要です。医療機関との連携も重要です。そのためにも職員の人数・体制の充実が必要だし、労働時間の抜本的な改善も大切です。子供への社会的支援が不足すれば、将来的には成人年齢での福祉の問題に繋がります。その先は、高齢者の福祉問題、それらの施設での問題になっていく。未来を見据えた視点で、児童自立支援施設を再構築していく必要性は増しています」
 「今日はありがとうございました」

 

【特集その2】経済支部の職場「東京都農林総合研究センター」

 公益財団法人東京都農林水産振興財団(以下「農林水産振興財団」という。)は、農林水産業の担い手となる後継者の確保育成や農林水産業の振興、森林保全整備、緑化推進事業等を行っています。組織的には、農林水産業の現場に密着した振興事業を行う「事業部門」と、農林業から畜産業までを対象とする「試験研究部門」(農林総合研究センター)を一体的に運営することで、高度な知見・有用な技術に裏付けされた効果的な支援を行っています。
 農林総合研究センターの緑化森林科を訪れ、経済支部長の野口さんと組合員の新井さんに、主に森林産業分野についてお話を伺ってきました。

 

100年後の東京の森と林業を見据えて

編集部(以下「編」) 「東京の森林や林業について簡単に教えて下さい」
野口さん 「東京都の森林面積は東京都の面積の約4割を占めていて、森林の約7割が多摩地域西部にあって、多摩地域の民有林では森林の6割が人工林という高い人工林率が特徴です。樹齢構成は、41年生以上が約9割を占めています。一方で造林面積は年間五十ヘクタール程度で増減しており、最盛期千五百ヘクタールから大幅に減少した状態です」
新井さん 「東京都が策定した【森づくり推進プラン】では、持続可能な森林循環の確立と林業の経営力強化を掲げています。東京都の林業は二千人超いた林業従事者の減少が続きましたが、最近は回復傾向にあるようです」編「農林総合研究センターの緑化森林科の主なお仕事について教えて下さい」
新井さん 「緑化森林科の仕事は、主に緑化分野と森林産業分野です。緑化分野は、東京を緑豊かな都市とする研究に取り組んでいて、屋上緑化や街路樹に関する研究もやっています。造園業との連携もしています。森林産業分野では、現在は花粉対策事業に関連する研究が中心になっています。花粉を出さないスギの研究や花粉の少ないスギの植栽の話を聞きませんか」
 「石原知事が花粉症になって始めたという記憶が」
新井さん 「そうです。2006年から始まった事業で、ここ数年は年間50ヘクタールの少花粉スギなどを植栽しています。農林水産振興財団の花粉対策室が中心の事業です。東京産のスギの供給が縮小したのは、スギ材の価格低迷の他に何が原因かご存じですか」
 「建物が木造から鉄筋に変わったからですよね?」
新井さん 「実は、東京産のスギは、主に建設現場の足場の材料として供給されていたもので、建物の建築材料ではないのです。細くて真っすぐなスギの特徴が足場の材料として優れていた。【火事と喧嘩は江戸の華】の頃から、建物を建て替える際に大量に必要だったのが、足場の材料としての東京産のスギでした。戦後、建物が高層化する等で足場も金属製の材料が求められ、置き換えが進んだことで東京産のスギの需要は減少しました。ですから、民家や建物の建築材料の変化より産業構造の変化で東京のスギの供給は激減したのです」
 「知りませんでした」

 

花粉対策の伐採や植栽に幾つもの役割や波及効果

新井さん 「重要なのは、花粉対策の植栽は、花粉対策に留まらず幾つもの役割や波及効果があることです。
 将来も林業を継続する森林を対象に、森林循環を促進し、花粉削減及び多摩産材の安定供給を図ることを目的として、スギ・ヒノキ林を伐採し、花粉の少ないスギ等への更新を行っています。農林水産振興財団の花粉対策室が、東京都が出捐(しゅつえん)する基金及び補助金により、森林所有者から立木を購入し、伐採・搬出・木材販売を行い、伐採後、20年間又は30年間の標準的な植栽、保育に必要な経費を全額負担して実施しています。
 東京では、木材価格の低迷、労務費の高騰から伐採・更新がほとんど行われていない時期がありました。スギは普通に伐って売っても赤字なのです。その結果、花粉をつける林齢のスギ・ヒノキが増え、多くの花粉を飛散させています。伐採跡地に花粉の少ないスギなどを植栽することで、花粉の少ない森づくりを進めるとともに、多摩産材の安定供給と東京の林業の活性化に繋げています」
 「非常に長い期間で取り組む事業なのですね」
新井さん 「もう一つ重要なのは林業の未来への技術継承です。東京都の広大な人工林での伐採、利用、植栽、保育という循環を維持していくために、技術を次世代への継承することは欠かせません。花粉対策で、林業の新たな担い手作りも援助していることになります」
 「新井さんはどんな仕事を担当されていますか」
新井さん 「私の担当は、主に林業への獣害対策です。ツキノワグマ、イノシシ、タヌキなどによる獣害もあるのですが、東京の獣害の中心はニホンジカの害です。スギを伐採すると斜面の日当たりが良くなり下草が成長します。そこにスギの苗を植栽すると、下草を餌にしているシカが苗も食べてしまうのです。その対策で、現在は化学繊維製のシカ柵が多く用いられているのですが、この化学繊維製のネットをタヌキが噛み切ってしまい、そこからニホンジカが侵入して被害を出してしまいます。そこで、タヌキが噛み切れない丈夫な柵の研究しています。しかし、単に丈夫な柵に置き換えるだけでは不要になった後の撤去が困難ですから、自然に分解されるシカ柵を開発しています」
 「獣害が最近は話題です。東京でもニホンジカの被害は広がっていますか」
新井さん 「以前の調査では三千頭程度と推計していました。最近の調査でも三千頭程度ですが、生息域が拡大しているようです。2004年以前、シカは貴重な野生動物として保護され、多摩川の北岸、奥多摩町の最奥にわずかな個体が生息していました。ニホンジカは臆病な動物なので元々の生息範囲は狭いのですが、伐採と造林で餌が多くなる場所に移動してしまうのです。以前、奥多摩町の奥地で再造林した林地では、2004年、シカ害が原因で土砂が崩壊し、流出した大量の土砂が奥多摩町の取水口を塞ぐ大きな被害が出ました。それ以後、東京都の農林総合研究センターでは糞粒法などによる調査を進め、シカの生息の実態の把握と対策を進めてきました。あの頃はシカ被害の把握、シカの生息の推定などで大変でした。随分と超過勤務もしました」
 「仕事で困難を感じることはありますか」
新井さん 「旧林業試験場は日の出町にあって、現場の近くでした。今は立川に職場がありますので、現場まで片道40分。往復で約一時間半掛かるようになりました。その点では大変ですね」

 

被害解決型の仕事だが同時に未来提唱型

 「この仕事のやりがいは何だと思っていますか」
新井さん 「仕事自体、色々と面白いことはあるのですが、一番面白くてやりがいを感じるのは、一人ではやれない仕事、というところじゃないかな。みんながいるからやれる仕事なのです。緑化森林科の中だけでも、技術職だけではなく、事務も現業も、みんなで協力しないと仕事は進まない。本庁の部署も、森林事務所も、林務出張所などとも一緒に仕事をする。特に獣害対策は環境局、建設局、水道局との連携も欠かせないです」
 「翔んで埼玉県、山が多い山梨県、神奈川県、国との協力も必要ですよね」
新井さん 「そういったみんなでやる仕事、一人ではやれない仕事は、出来上がった時に本当に面白いし、やりがいを感じます」
 「東京の森林や林業への思いを教えて下さい」
新井さん 「東京の森林は、木材の供給をはじめ、水源のかん養や災害の防止、二酸化炭素の吸収、レクリエーションの場の提供などの多面的機能で都民生活に貢献をしています。東京都も東京の森林の将来展望として、50年、100先を見据えた森づくりを提唱しています。私達の仕事は、被害解決型の仕事ではあるけれど、同時に未来提唱型の仕事でもあるのです。林業分野でも、例えば東京の神社、寺、歴史的建造物などを建て替える時、将来的に東京産の木材を良い材料として使うことができたら素晴らしいと思いませんか。そのためには林業技術の継承も必要です。製材所の経営安定も重要です。多くの都民に、何十年、何百年先を展望して東京の森林や林業を考えて欲しいと思います」
 「今日はありがとうございました」

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