2023年東京都人事委員会勧告に対する都庁職の見解と態度
2023年10月19日
東京都庁職員労働組合
1 はじめに
10月13日、東京都人事委員会は、都議会議長及び都知事に対し職員の給与に関する勧告・報告(意見)及び人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)を行いました。
給与に関する報告では、例月給については、民間給与が都職員給与を3、569円(0・88%)上回っているとし、初任給に重点を置きつつ、全級全号給について引上げ改定を勧告しています。例月給の改定は、4月に遡って行うとしました。また、特別給については、勤勉手当を0・10月引上げ、再任用職員についても、勤勉手当0・05月引上げるとしました。
全級全号給の例月給及び特別給の引上げ勧告となりましたが、この間の大幅な物価高騰に見合った大幅賃上げを求めている私たちの期待を裏切る不当な勧告であり、到底容認できません。また、行(一)1級・2級の昇給幅の是正については、都人事委員会に対し、都庁職、都労連がこれまで再三に渡り見直しを行わないよう要請していたにもかかわらず、今回の給料表の改定において、この間の課題として是正を行っている点も看過することはできません。
2 2023年人事院勧告及び他団体の状況
8月7日、人事院は政府と国会に対して、国家公務員の給与に関する報告と勧告、公務員人事管理に関する報告、職員の勤務時間の改定に関する勧告を行いました。月例給について、民間給与との較差0・96%、3、869円を埋めるため、初任給をはじめ若年層に重点を置いて俸給表を引上げ改定、一時金については0・10月分を、「概ね公務と民間で均衡している状況に達した」として「期末手当及び勤勉手当に均等に配分する」こととしています。再任用職員については、俸給表全体の改定に伴う再任用職員の月例給の引上げ、一時金0・05月分の引上げを勧告しましたが、常勤職員や期間業務職員の約半分とされている一時金月数の格差については改善されませんでした。非常勤職員については、「職員の給与に関する報告」で、4月から非常勤職員の給与を常勤職員に準じて改定するよう努める旨の指針改正を行ったことを受け、「この指針に沿った適切な給与支給が行われるよう、各府省を指導していくこととする」と述べています。
また、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備について、公務員人事管理に関する報告の中で@「人材確保への対応」A「組織パフォーマンスの向上」B「働き方やライフスタイルの多様化への対応」の三つの柱によって構成される「骨格案」が示されました。2024年以降も、給与水準の在り方、65歳定年を見据えた給与カーブの在り方等については、引き続き分析・研究・検討することとしています。さらにフレックスタイム制の見直しについて、現行では子の養育又は配偶者等の介護をする職員等に限り、勤務時間の総量を維持した上で、週1日を限度に勤務時間を割り振らない日を設定することができることとされている措置の対象を、一般の職員にも拡大することなどについて述べています。
他団体の勧告の状況としては、10月13日現在、すべての政令指定都市で勧告が実施されています。月例給については2、059円から4、102円の公民較差が報告され、人事院勧告と同様に若年層に重点をおいての改定の勧告となっています。また、特別給についてはほとんどの政令市においては0・10月分引上げ、期末手当と勤勉手当に均等に配分という内容となっています。
3 東京都人事委員会勧告の内容と問題点
1.例月給の較差と給料の改定
職員給与の報告と勧告では、本年4月における都職員の平均給与が406、313円であるのに対し、民間給与実態調査による民間従業員の平均賃金が409、882円であったとして、例月給の公民較差を3、569円(0・88%)としました。このため、給料表の引上げ改定を4月に遡って行うとし、初任層に重点を置き、全級全号給について平均改定率0・9%の引上げ改定を行うとしました。また、給料表の改定において、これまで都人事委員会が行政職給料表(一)1級・2級の課題として言及してきた昇給幅の是正についても行うとしています。
そもそも、職員の給与に関する報告(意見)の中でも述べられている通り、本年4月の時点で東京都区部における消費者物価指数は昨年4月に比べ3・5%上昇し105・1となっており、直近の9月速報値ではさらに指数が上昇し105・8となっているにも関わらず、今回の勧告により改定される平均0・9%の改定では、物価上昇分に追いついてないことは明白です。
さらに今回、給料表の改定に合わせてこれまで都人事委員会が行政職給料表(一)1級・2級の課題として言及してきた昇給幅の是正について行ったことは看過できない問題です。今回、人材確保の観点から初任層に重点をおいて引上げ改定を行ったとしていますが、新卒T類B採用の職員は2回目の昇給から少しずつ昇給幅が現行よりも狭くなっています。これにより、1級のままで40歳になるころには今回の初任給の改善分が昇給幅の縮小と相殺し、現行とほぼ変わらない給与水準となってしまいます。
人材確保の観点から初任層に重点を置きつつ全級全号給について引上げ改定といえば聞こえは良いですが、その実はこの間都人事委員会が固執し続けた行政職給料表(一)1級・2級の昇給幅の是正にあり、都民生活を支えるため奮闘しているすべての職員の大幅賃上げを求める思いを裏切るものだけではなく、人材確保に逆行していると言わざるを得ません。
都庁職は行政職給料表(一)1級・2級の昇給幅の是正を許さず、すべての職員の大幅な賃上げを求めます。
2.初任給
初任給の改善については、T類B(大卒)8、300円、U類(短大卒)7、900円、V類(高卒)7、900円引上げるとしましたが、大幅な改善がなされた国家公務員の初任給と比較すると、大卒では4、500円、高卒では6、500円も較差は拡大しています。私たちは、民間や国家公務員と比較して低い水準となっている初任給について、速やかに引上げて格差を解消するよう求めてきましたが、今回の改善では人材確保の観点からも、極めて不十分であると言わざるを得ません。
3.特別給
勧告では、特別給の民間支給月数が4・63月であり、都の現行4・55月を0・08月上回っていることから、都職員の年間支給月数を0・10月引上げ、4・65月とするとしています。特別給0・10月の引上げは約4万円の年収増となります。特別給の引上げは、民間従業員の特別給における考課査定分の割合等を考慮し、勤勉手当で行うことが適当であるとしています。特別給の引上げは、今年度は12月期の勤勉手当を0・10月分(再任用0・05月分)、2024年度は、6月期、12月期の勤勉手当を0・05月分(再任用0・025月分)ずつ引上げるよう勧告しました。
特別給の引上げは、2年連続の勧告となります。しかし、国やほとんどの政令市の勧告では特別給の引上げは期末手当と勤勉手当に均等に配分するよう勧告されているにも関わらず、都においては勤勉手当のみでの引上げ勧告である点は大きな問題であり、期末手当しか支給されていない会計年度任用職員にとっては特別給の改善に結びつきません。
また、勧告が実施されれば年間の期末手当は2・40月、勤勉手当は2・25月となり、勤勉手当の割合が47・3%から48・4%に拡大し、能力・業績主義が強化されることになります。
都人事委員会の資料では、特別給の支給状況は1、000人以上の企業で年間4・97月であり、私たちの要求からすれば、0・10月の引上げでは到底納得できる内容ではありません。
4.諸手当
諸手当に関する改善は勧告されませんでしたが、人事院の在宅勤務等手当の新設について述べられ、任命権者においては、在宅勤務等手当の支給について国との制度均衡を考慮しつつ、都におけるテレワークの実情や国の法改正の動向を踏まえて検討が必要であり、在宅勤務等手当を支給する場合には、併せて通勤手当の取扱いについても検討すべきであるとしています。
5.再任用・会計年度任用職員の給与
勧告では、極めて不十分ながらも全級全号給での給料表の改定が行われ、再任用職員の給料月額についても、1級・2級では500円の基準額の改定がありました。特別給は、0・05月分の引上げをすべて勤勉手当へ配分しています。これにより、年間の期末手当は1・35月、勤勉手当は1・10月となり、特別給に占める勤勉手当の割合は、43・8%から44・9%に増大します。再任用職員の勤務形態は、フルタイムが増え、仕事も正規職員と同様になっています。無年金期間が拡大しているにも関わらず、その賃金水準は改善されていない状況が続いており、生活できる大幅引上げが求められます。再任用職員の賃金水準は、60歳前の約6割という低い水準であり、抜本的な改善がなされるべきです。
報告(意見)では、会計年度任用職員について、来年4月に施行される地方自治法の一部を改正する法律により、新たに支給が可能となる勤勉手当については、国が示す考え方を参考としつつ、人事評価制度の運用や任用の実態等を十分に踏まえ、都の実情に応じた検討を行う必要があると述べています。
6.今後の課題
都人事委員会は、職員の給与に関する報告の今後の課題として、「能力・業績を反映した給与制度の更なる進展」「職務給の更なる進展等」「新たな給与制度の在り方についての検討」を上げています。
「能力・業績を反映した給与制度の更なる進展」では、これまで都人事委員会は職員の能力・業績の給与への反映を基本とし、特別給における勤勉手当の割合の拡大や成績率の査定幅の拡大等について言及してきたとし、今後とも、能力・業績が反映された給与制度となるよう、期末・勤勉手当への適正な配分その他について検証していく、昇給制度については、任命権者において本年以降実施される勤務の成績に基づく下位区分の適用の見直しや定年引上げの影響も含めた運用実態を分析し、適切な対応を検討していく、としています。
「職務給の更なる進展等」では、都人事委員会がこれまで言及してきた行政職給料表(一)1級・2級における昇給幅について、給料表の改定の中で、上位級とのバランスを考慮したものへと是正を行ったとし、今後、定年引上げ等による職級構成の変化を注視し、必要に応じて職務の級の職責を踏まえた給与制度について、適宜、適切な対応を検討していくとしています。都庁職はこの間、給料表の構造については、都職員の生計費保障を基本に改善を図り、この間の昇給カーブのフラット化を是正することや、行政職給料表(一)1級・2級の引下げを行わないことを都人事委員会に要請してきました。今回の見直しはこの要請に完全に背を向けるものであり、絶対に容認することはできません。
「新たな給与制度の在り方についての検討」では、人事院の報告において示された給与制度のアップデートに関し令和6年に向けて主に取り組む事項について触れ、来年、人事院において成案が示されることを見据えて、都の実情を踏まえ必要に応じて対応を検討するとしています。また、定年引上げが完成した後は、60歳前後で給与水準が連続的になるように給与制度を設計する必要があるとして、都の定年引上げ等に伴う任用実態の変化や民間における高齢層の給与の状況などについて継続的に把握し、新たな給与制度の在り方に関する研究・検討を進めていくとしています。
7.人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)
都人事委員会は、多様な人材の確保・育成・活躍の推進の「人材確保・育成に向けた取組」の中で、採用試験の申込者数が都では10年前の3分の1程度の水準まで落ち込んでおり危機的状況であるとしながらも、都の勤務環境は個々の事情に合わせた柔軟な働き方を可能とする制度が整備されており、安定的に働き続けられる条件が整っていると自画自賛し、求職者のターゲットごとに効果的な情報発信・コミュニケーションを重ねることが有効としています。
しかし、新規採用者の応募が減少しているのは、単に都政の仕事について理解されていないというだけではなく、現在の都政の職場が、長時間労働や民間賃金を精確に反映していない低賃金など、働きがいのある魅力ある職場となっていないことが原因です。魅力ある働きがいのある職場を実現するために、当局は都労連要求に応えるべきです。
採用制度の検証について、人材供給構造の変化や転職の増加などに対応した採用制度の見直しを迅速に進めることが重要であるとし、本年8月に導入を公表した適性検査について、他の民間経験者等向けの採用試験についても拡大するとしています。また、採用チャネルの多様化として、特に競争倍率の低迷が続いている技術職について、民間併願者等の受験生を誘引するため、具体策を速やかに検討・実施していくとしています。
昇任制度の見直しについて、主任級職選考については、任命権者とともに試験の実施方法を含め時代に即した選考制度とすべく検討を進めてきたとし、今後速やかに制度改正を行なっていくとしています。管理職選考については、受験率向上の取組とともに、管理職選考種別Bの有資格者であるベテラン層がより責任ある立場に立ち、組織の課題解決力の強化に資するよう、行政専門職の区分の更なる拡充を進めながら、管理職選考の種別の在り方も含めて検討を進めていくとしています。
「誰もが活躍できる都庁の実現」では、多様な人材がその能力を十分に発揮し、互いを尊重し合い、生き生きと働き続けられる環境が重要であるとしています。また障害を有する職員が働きやすい職場づくりに努めていくとともに、受け入れる組織を支える取組の強化が重要だとしています。都庁職は、障害をもつ職員の労働条件改善にむけて「障害者の雇用及び労働条件の改善に関する要求書」を当局に提出し、改善を求めています。
8.働き方改革と勤務環境の整備
働き方改革と職員の勤務環境の整備では、ライフ・ワーク・バランスの推進、職員の勤務環境の整備、公務員としての規律の徹底などについて報告しています。
ライフ・ワーク・バランスの推進では、本年8月に人事院勧告においてなされたフレックスタイム制を活用して勤務時間を割り振らない日を設定できる職員の範囲の拡大や夏季休暇の使用可能期間の拡大について触れ、これらの事項については都と国の制度の違いや都の職場実態等を考慮した上で引き続き検討する必要があるとしています。
長時間労働の是正として、これは職員の心身の健康保持、ライフ・ワーク・バランスの推進、誰もが働きやすい職場環境の醸成、有為な人材の確保などにつながる極めて重要な課題としています。令和4年度の本庁における一人当たりの平均超過勤務時間数は5年ぶりに前年度より減少したものの、引き続き高い水準となっているとし、規則の上限である年間360時間や720時間を超える超過勤務を行っている職員が依然として存在していることを指摘した上で、上限を超えて超過勤務を命ずることは真に必要最小限とすることを徹底しなければならないとしています。また、規則に定める特例業務による超過勤務の要因の整理、分析及び検証については、その結果を長時間労働の是正につながるよう職場にフィードバックするなどして効果的に活用していく必要があるとし、任命権者が強いリーダーシップを持って取り組むことを望むとしつつ、これらの取組を進めてもなお恒常的な長時間労働が解消されない場合には、人員を更に精査して適切に配置していくべきであるとしています。都庁職としても毎年超過勤務縮減に関する要求書を提出し、当局に改善を求めているところですが、長時間労働は慢性化し、一向に改善されない状況が続いています。これは人事委員会の意見で述べられている通り、業務量に見合った人員配置が必要な状況と言えます。
女性の活躍推進・男性の育児休業等の取得促進については、女性が働きやすい環境づくりを推進することは、女性だけでなく男性にとっても生き生きと働くことができる環境の実現につながり、ひいては都が充実した行政サービスを持続的に提供していくことを可能とするものであり極めて重要であるとしています。しかし、制度の利用促進や休暇等を利用しやすい職場環境の整備などについては、都のこの間の取組を評価するにとどまり、踏み込んだ意見はありませんでした。
職員の勤務環境の整備として、ハラスメント防止対策では、ハラスメントが人権に関わる重大な問題であり、確実になくしていかなければならないとしていますが、ハラスメントが行われることのない勤務環境づくりや発生防止に向けた取組の推進を言及するに留まっています。また、精神疾患を理由とする長期療養者数が増加傾向にあると指摘し、ストレスチェックについては、受検勧奨を行うとともに、集団分析結果を活用した職場改善に効果的に取り組むことが肝要であるとしています。
4 都庁職の態度
都庁職は、東京都人事委員会勧告に向けて、大都市東京に暮らす職員の生活実態を踏まえて、全ての職員の生活改善につながる、物価の高騰を上回る大幅賃上げを求めて、都労連指令に基づく全組合員を対象とした人事委員会要請署名、職場一斉宣伝行動、ステッカー闘争などに職場・支部をあげて取組んできました。
今回、東京都人事委員会は、例月給については公民較差を3、569円、0・88%とし、初任層に重点を置き、全級全号給について平均改定率0・9%の引上げ改定を行うとしました。また、給料表の改定において、これまで都人事委員会が行政職給料表(一)1級・2級の課題として言及してきた昇給幅の是正についても行いました。これにより、新卒T類B採用の職員は2回目の昇給から少しずつ昇給幅が現行よりも狭くなり、1級のままで40歳になるころには今回の初任給の改善分が昇給幅の縮小と相殺し、現行とほぼ変わらない給与水準となってしまいます。特別給は0・10月引上げるという勧告を行いましたが、国や他の政令市が引上げ分は期末手当と勤勉手当に均等に配分を勧告する中、勤勉手当のみでの引上げという問題のある勧告です。この間の急激な物価高騰に対応するため大幅な賃金引上げを望む私たちの期待を裏切り、国家公務員の較差3、869円を下回る大都市東京の民間賃金実態を精確に反映していない、極めて不当な勧告です。
特別給について勤勉手当を引上げるとしたことは、職員の能力・業績を給与へ反映させることを狙いとしており、都人事委員会が「職責・能力・業績主義」の徹底を図る都側に加担する不当な内容です。現行制度では期末手当しか支給されていない会計年度任用職員にとっては、特別給が改善されないという極めて不当な内容となります。
本年の報告では、私たちが求めていた、長時間労働の是正や職場環境の改善などについては、具体的な意見の申し出はありませんでした。報告の内容も、全体的に当局の主張に沿ったもので、都労連・都庁職の要請に応えない不当なものであり、中立・公正な第三者機関の役割と責任を放棄していると言わざるを得ません。
都労連は、不当な勧告と意見の押し付けを許さず、労使交渉による大幅賃上げと都労連要求の実現に向け全力で闘うとしています。
都庁職は、都政の現場で働く全ての組合員が生活を維持し、誇りをもって働ける処遇改善を実現するために、職場・支部・分会からの運動を基軸にして取組を進めていきます。
2023年秋季年末闘争において、都労連各単組の統一と団結を固め、要求実現に向けて都庁職の総力を上げて闘う決意です。
以上
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