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伊ヶ谷地区海上より見る三宅島
伊ヶ谷地区海上より見る三宅島 撮影2003年4月10日三宅支庁提供
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都庁職新聞
 
新春 特別寄稿
奪われた故郷 もう一度決意し、行動する年に
ジャーナリスト・鎌田慧さん
 2011年6月の脱原発行動の呼びかけから2年半。昨年末で、この「さようなら原発」の署名は、遂に840万人を超えました。「さようなら原発」運動の呼びかけ人の一人である鎌田慧さんから、故郷への思い、原発事故から3年を迎える福島の現状を中心に、特別にご寄稿をいただきました。

多くの人が故郷の意味を考えた

鎌田慧さん
鎌田 慧(ジャーナリスト・作家)
プロフィール:1938年青森県生まれ。早稲田大学文学部卒。
主な著作『自動車絶望工場』、『反骨‐鈴木東民の生涯』(新田次郎文学賞)、『六ヶ所村の記録』(毎日出版文化賞)、『さようなら原発の決意』その他多数

 三年前の福島原発事故は、多くの人たちに「ふるさと」の意味を深く考えさせた。わたしは、東北青森県の出身者で、18歳で東京にでてきた。若いうちは、たいがいのひとはそうだと思うけれど、「ふるさと」には、たいした思い入れはなかった。
  青森は「出稼ぎ県」として知られていた。いまどきは、「出稼ぎ」も死語になって、派遣労働者が主流になったが、かつては「青森からきました」というと、「ああ出稼ぎか」と軽くいわれてしまったものである。蔑視もふくまれていた。
  いまどきは地方にたいする憧れもあったりするから、人びとの意識もすっかり変わったのだ。

 

福島原発での事故から丸三年に

 

 今年の三月一一日で、福島原発事故から、丸三年になる。三年たって、「帰宅困難地域」に指定され、将来ともに帰還できそうもないひとたちが、9200所帯、2万5000人もいる。「居住制限地域」もおなじような数字である。
数字といっても、傍目には想像できない、ひとりひとりの人生の不安と希望が凝結した重いものである。
  「ふるさとは遠くにありて思うもの」と詩人が謳った。「ふるさとの山はありがたきかな」
  と東北出身の歌人が詠んだ。都会で忙しく働いているとき、ふと、ふるさとの山影を思い起こして力づけられたりするのは、そこで培われた父母の愛情や友人たちの面影に励まされるからである。
「帰りなんいざ、田園まさに蕪せんとす」
  と中国の詩人が書きつけた。心弱くなったとき、あるいは病をえたとき、ふるさとの肉親のもとに身を寄せることができる。あるいは、定年を迎えて荒れ田のもとに引っ込み、鍬を手にすることがあるかもしれない。

 

そこにあるだけで夢をはぐくむ

 

自分を抱きしめてあげたい日に

鎌田慧さんの著作
(日本の原発危険地帯)
世界を震撼させた原発パニック。町はなぜ原発を受け入れたのか。そこで何が起きたのか。鎌田慧さんが各地をルポして記憶した本。
(自動車絶望工場)
働く喜びって、なんだろう。毎日、絶望的に続くベルトコンベア作業の苛酷さ。自ら季節工として働いた大変を再現した傑作ルポルタージュ


 ふるさとはそこにあるだけで、それぞれの夢をはぐくむ。ふるさとは魂のよりどころなのだ。原発事故はそれを永遠に奪った。巨大な激浪に押し流された東北の海岸の町は、復旧にむかいつつある。
  が、いまだに、漁船が陸地に乗り上げ、トラックが田んぼの中で横転している三年前の異様な光景のままでいるのが、原発立地地域の「帰還困難区域」である。
  そこだけが、まったく取り残された空白の土地になっているのだが、そこにはすこし前まで、住む人たちがいた。
  たしかに、海側は廃墟の光景だが、山側には集落がそのまま残っていて、住民が帰るのを待っている。しかし、そこには放射性物質が降り積もり、ひとびとは帰ることもできず、遠く離れた地域の狭い仮設住宅に身を寄せている。

 

また起きたら、日本は壊滅する

 

 子どもに甲状腺がんの被害者がでてきた。これからふえるのではないか、との不安が拡がっている。天文学的な放射能が、「ベント」によって環境に放出され、原発建屋が水素爆発で吹き飛び、高濃度の放射能汚染水が海にむかって流れ続けている。
 原発サイト(敷地)内に慌ただしく建てられた、1050基あまりのタンクにいれられた放射能水が、いつ溢れでるかわからない。
  破壊された原発に残っている使用済み核燃料の行方もしれず、プール内の水が漏れれば、核燃料が臨界点に達する。
  除染、賠償、廃炉、最終処分などの経費は、数十兆円におよぶ、と推測できる。もう一度事故が起きれば、日本は破滅する。いまなお日本は危機一髪の状態にある。いわば神頼みの状態なのだが、それでも首相は、全停止している原発の再稼働と核燃料サイクルの維持を公言している。この無神経さと冷酷さは異常である。
  原発を輸出産業にしたい、電力会社を黒字にしたい。すべて経済優先の考え方である。しかし、大事なのはカネではない、いのちと健康である、というわたしたちの声は政治に反映されていない。

 

安倍政権は東北人の苦しみを尻目にして

 

 わたしたちは、再稼働による原発事故の再現を恐怖するばかりか、輸出先の事故への責任も考えなければならない。輸出先国が余剰プルトニウムによって核武装する「核拡散」にたいする責任もある。少し前まで、核廃棄物を輸出する計画まであったのだ。
  安倍政権は、わたしたちの運動が決意させた、民主党政権の「原発ゼロ」の方針を白紙に戻し、「原発は重要なベース電源」と強弁している。事故からはじまった東北人の苦しみを尻目に、大事故をなかった、とする政策である。
 防衛予算の拡大、武器輸出、集団的自衛権の容認、増税、憲法改悪。2014年は、「日本国憲法」前文のいう、「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起らないようにすることを決意」を、もう一度決意し、行動する年である。 
 

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