健康 メンタルヘルス講座(38)
コミュニケーションを考える
メンタルへルス研修で、「職場内のコミュニケーションが重要だ」という話をすると、『頭ではわかるけどどうすればいいかわからない』といったご意見をよくいただきます。確かに仲良しグループで係を組めば別ですが、そうはいきません。 三省堂大辞林ではこの語を「人間が互いに意思・感情・思考を伝達し合うこと」としています。つまりコミュニケーションが取れていないということは、自分の気持ちを相手に伝えられていない、そして相手の気持ちをわかろうとしていないということになります。
最近『アサーション』という手法が注目されています。これは相手のことを考えながら、しかし自分の意見をきちんと相手に伝えるというもので、対人コミュニケーションの第1歩といえるでしょう。
またメンタルへルスケアにおいて、周囲の気づきも重要であるとされていますが、これは相手の気持ちをわかろうとしないと難しいでしょう。
話は変わりますが、先日某有名カツ丼屋で長蛇の列を発見しました。中に入ると目の前で店主が目まぐるしいスピードで調理しておりとても大変そうだったのですが、客が立ち上がり、店員が「ありがとうございました」というと、手を止めてその客を見つめ、視線を合わせて「おおきに。またよろしくお願いします」というんです。もちろんカツ丼もおいしかったのですが、その光景がとても印象的で忘れられません。
普段われわれは通勤や職場でたくさんの人とすれ違いますが、あまり特徴的でなければどんな人とすれ違ったかを思い出すことは出来ないですよね。それは注意して見ていないからだと思います。相手のことをわかろうとする第1歩は、その人を意識して”見る”ことかもしれません。忙しい時には、他人に注意を向ける余裕はないと思います。ですが”見る”ことはかかっても数秒でそれほど負担は多くないはずなんです。
この記事から視線を上げて、一度周りにいる人の顔を”見て”ください。みなさんどんな顔をしていますか?余裕がないときにこそ、ぜひ”見る”ことを意識してみましょう。
(産業医の立場から 宇佐見和哉)
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健康メンタルヘルス講座5年目を迎えます。宇佐見和哉先生には、07年4月から09年3月(第20回〜38回)に寄稿していただきました。今の都庁における諸問題を文章に凝縮させていただき、読者から好評を博した宇佐見先生の執筆は終了いたします。ありがとうございました。
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