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伊ヶ谷地区海上より見る三宅島
伊ヶ谷地区海上より見る三宅島 撮影2003年4月10日三宅支庁提供
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2009年世界を読む日本を読む

転換期に入った国際政治システム ドル崩壊と多極化

国際情勢解説者 田中 宇(たなか さかい)さん

 大きく動いている世界情勢ですが、独自の視点で世界のニュースを分析した解説記事を配信する田中宇さんに登場していただきます。「田中宇の国際ニュース解説」は週1〜2回無料配信され、約20万人の読者がいるそうです。「『ブレトンウッズ2』の新世界秩序」「中道派になるオバマ(組閣の裏側)」、「09年夏までにドル崩壊??」など洞察力ある記事は読み応えがあります。アメリカ系・ヨーロッパ系・アジア系・中東系など30以上の膨大な情報源から、世界の動きを読み解く田中さんに、新聞やテレビを見てもわからない国際政治の動向に迫っていただきました。

英文メディアは底が深い。
情報源にあたり、その中から宝をつかむのが、
世界情勢を読み解く鍵です。
田中 宇(たなか さかい)さん

プロフィール
1961年5月生まれ、東京育ち。
1986年に東北大学を卒業後、繊維メーカー勤務1年を経て共同通信社に入社。京都支局で警察や市民運動を取材。京都の山間部に住む在日朝鮮人をテーマにしたノンフィクション「マンガンぱらだいす」を出版する。
1993年から、東京でゼネコン汚職、自動車産業、東南アジア経済などを取材。
1996年春、共同通信社内で、アメリカの通信社から送られてきた英文記事を翻訳する部署に異動。英文メディアの底の深さを知り、サイトを作ることを思い立つ。解説記事のメール配信も始める。
1997年4月、マイクロソフト・ネットワーク(MSN)がインターネットによる報道機関を作ることになり、マイクロソフトに入社。「MSNジャーナル」を立ち上げた。
1999年、マイクロソフトを退社。独立して、活動を始める。
2002年、「仕組まれた9・11」PHP研究所、「米中論」光文社新書/2003年、「アメリカ超帝国主義の正体」小学館文庫、「辺境-世界激動の起爆点」宝島社/2004年、「アメリカ以後」光文社新書、「非米同盟」文春新書/2008年、「世界がドルを棄てた日」 光文社など著書多数
 
一時8000ドル割れのニューヨーク株式2008年10月10日、寄り付き直後のニューヨーク証券取引所のフロア。寄り付き直後に暴落し、ダウ工業株30種平均は一時2003年4月以来5年半ぶりに8000の大台を割り込んだ。この後、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の合意に対する投資家の思惑を背景に乱高下し、結局、前日終値比128.00ドル(1.5%)安の8451.19ドルと、8営業日続落で取引を終えた。(アメリカ・ニューヨーク) (AFP=時事)
大恐慌が世界システムを作り替える

 大恐慌が、世界経済を襲っている。一昨年夏、米国で住宅ローンの破綻増をきっかけに、不動産を担保とする債券の市場が急落した。米国の金融機関は、自社の資産の健全性を高く見せるため、リスクの高い不動産担保債券(債権)の多くを帳簿外において運用しており、金融機関は相互にどのくらいの不良債権を抱えているかわからず、相互不信が拡大して金融恐慌となった。
 米国の財務省や、中央銀行である連邦準備制度(FRB)は、金融機関に対して早期に帳簿外の資産状況を公開させるべきだったが、それは行われず、米当局は目先の救済策だけを続けたので、米金融界は極度の貸し渋りに陥り、恐慌は金融以外の経済部門に拡大し、昨年秋から未曾有の大不況となった。米国と似た金融システムを採っていた英国や欧州大陸諸国でも同様の金融恐慌が拡大し、世界規模の大恐慌が起きている。
 今回の金融恐慌によって、1980年代に米英が行った金融自由化以来、世界的に普及した「レバレッジ型金融システム」は全崩壊した。従来の金融システムが市民から預金を集めて企業などに融資するのに対し、レバレッジ型は資産価値を債券化(証券化)して流通させることで成り立っている。利益率が預金型の10〜100倍だったレバレッジ金融は急拡大し、米国では預金型と同規模の10兆5千億ドルにまでふくらんだが、金融危機で債券の価格が急落し、規模は半分以下に縮小した。
 「アングロサクソン型資本主義」「新自由主義」として米英が世界に押しつけた「金融自由化」の花形だったレバレッジ型金融は、おそらく二度と復活しない。レバレッジ業界の中心だった米国の投資銀行5行のうち、3行は破綻、2行は預金型の商業銀行に転換して、投資銀行は全滅した。英国では銀行協会の会長が昨年6月に「レバレッジ金融システムは破綻した」と宣言した。金融崩壊の悪影響は、今後何年間も残るだろう。
 レバレッジ金融は、世界的な金あまり現象を生み、株価や地価、商品の売れ行きなど、あらゆる経済行為を底上げしていた。昨年9月に米当局が米投資銀行のリーマン・ブラザースを倒産させたことを機に、レバレッジ型バブルの崩壊が急に加速し、金あまり現象とは正反対の貸し渋りがひどくなり、10月から経済活動が世界的に一気に縮小した。
 日本では90年代の金融バブル崩壊後、政府や金融機関が慎重になり、レバレッジ型金融をあまり導入しなかった。そのため日本では、金融崩壊は米欧より軽度ですんでいる。しかし、世界的な経済活動の縮小を受けた企業業績の悪化は、日本でも輸出産業を中心に起きている。金融危機の最初の元凶となった米国の住宅価格は、今年いっぱいは下落を続けると予測され、世界的なレバレッジ解消も続くので、今年は日本も世界も不況の一年となる。

米国の覇権は崩壊する

 今年、米英中心の金融システムの崩壊は、米英中心の国際政治システム(世界システム)の崩壊と転換へと発展しそうだ。米政府は、ブッシュ政権による戦争戦略と、政治影響力のある各業界への財政支出増の結果、2期8年間で財政赤字が5兆ドルから10兆ドルに倍増した。加えて、金融危機や景気対策として、昨年だけで8兆ドルの財政支出枠が作られ、米政府の財政赤字は20兆ドルへと拡大しつつある。米政府は、金融機関に公金を注入して、レバレッジ金融が崩壊した穴を埋めようとしている。
 財政赤字は、国債発行で賄われる。日本では、国債の多くが国内で消化されるが、対照的に米国債は4割が海外の投資家に買われている。近年、米国債を買い増ししてきたのは主に中国と中東の投資家だったが、米国の財政赤字が10兆ドルから20兆ドルへと急拡大する中で、世界の投資家がどこまで米国を信用し続けるか怪しくなっている。
 米国債が売れなくなると長期金利が上昇し、改善策が採られない場合、債務不履行が起こる。米国が債務不履行になると、ドルは世界的に信用失墜し、基軸通貨(国際決済通貨)の地位を失う。米政府は財政赤字を増やせず、在日米軍の撤退など、覇権国としての役割を減退させる動きが起こりうる。第二次大戦以来、世界システムは、米国の覇権下にあり、ドルの強さはその象徴だった。冷戦後、欧州統合で作られたユーロが第2の基軸通貨として登場したが、ドルは依然として世界の貿易決済の7割程度で使われ、最大の基軸通貨である。ドル急落、米国の覇権喪失は、世界システムの破綻となる。

世界の多極化が加速する

 国際社会は、世界システムの破綻を看過せず、米国に次いで強い勢力であるEUとロシアが動き出した。昨年9月中旬のリーマンブラザース倒産で、米国財政破綻の懸念が拡大し始めたが、その2週間後には、EU議長であるフランスのサルコジ大統領と、ロシアのメドベージェフ大統領が会い、米国が財政破綻した後の世界システムについて話し合う国際会議を開くことで合意した。
 既存の世界システムを主導するのは米英中心のG7(先進国サミット)だが、問題になっているのは米英の経済システムの破綻懸念であり、米英だけが中心のG7の国際体制はもはや無効だった(世界銀行などが昨秋、G7の無効を宣言した)。必要とされているのは、米英だけが中心ではない世界システムだった。
 ロシア政府は今回の危機を数年前から予期し、欧米以外の大国であるロシア、中国、インド、ブラジルという、4カ国の頭文字を並べてBRICと呼ばれる4つの国を集め、何度か会議を開いてきた。BRICは、サウジアラビアや南アフリカなどの経済新興諸国や、既存の経済大国であるG7諸国の合計20カ国を集め、G20の国際組織を主導していた。EUとロシアは、G7ではなくG20の枠組みで国際金融問題についての会議を開くことを構想し、昨年10月初旬には米ブッシュ大統領もこれに同意し、11月中旬に米国ワシントンDCでG20の金融サミットが開かれた。この会議は「第2ブレトンウッズ会議」とも呼ばれたが、それは第二次大戦後のドル基軸の世界システムが、1944年の「ブレトンウッズ会議」で決定されたことに起因している。
 まだドルの破綻は起きていないため、G20サミットでは具体的な政策をほとんど決めず、今後の世界システムについての議論はG20で行うという枠組みだけが作られた。表向き、ドル破綻の可能性は議題にもならなかった。ドル破綻という言葉を出すだけで、パニックを誘発して破綻が早まるからだ。次のG20金融サミットは、米オバマ政権就任100日目が過ぎた4月末に開かれる予定だ。欧州には、早ければそのころまでにドルの破綻が始まると予測する分析者もいる。
 米欧やロシアから発せられる情報を総合すると、ドル破綻後に生まれる世界システムは、米国のほかにEUと、BRIC各国が地域覇権勢力として並び立つ多極的な体制になる。アラブ、中南米、東南アジアなどで多国間の地域経済統合が進めば、多極型の世界システムが補強される。基軸通貨も、ユーロや人民元、ペルシャ湾岸諸国(GCC)共通通貨、そして日本円などが並立する多極型を目指す。米国はいったん破綻した後に立ち直り、中南米やアジア太平洋地域に一定の影響力を行使する地域覇権国の一つとなる。
 今年1月20日には、米国の大統領がバラク・オバマに代わる。オバマは、米国の覇権復活を掲げて大統領に当選したが、実際にオバマ政権ができることは、米国をかつてのような唯一の覇権国に戻すのではなく、多極型の世界体制の一部になれるよう、米国を軟着陸させていくことである。新政権が単独覇権主義にこだわると、米国は劇的に破綻する可能性が強くなる。

日本人にとって好機

 日本政府は、対米従属の国是を続けることしか頭にないらしく、米英中心体制の一部であるIMFに10兆円を拠出するなど、既存の世界システムを支援することに専念し、多極化への対応を意味するメッセージを全く発していない。しかし、米国の崩壊規模はあまりに大きく、経済だけでなくイラク占領の失敗など軍事・外交分野にも及び、日本がいくら頑張っても防げるものではない。IMFに入れた10兆円は戻ってこないかもしれない。日本は、対米従属が続けられなくなることを想定し、EUやBRIC諸国との連携を強めた方が良い。
 世界経済は今後、しばらくは大不況が続くが、その後はBRICや中小途上国という新興諸国の経済発展によって再生するだろう。米英は覇権維持のため、世界各地で戦争を誘発し続けてきたが、今後覇権が多極化すると、戦争を誘発する勢力が弱くなり、世界は政治的にも安定する。BRICなど非欧米の大国は、自国の影響圏内では、安定を重視して時に抑圧行動をとるが、影響圏の外側で戦争を誘発することはない。世界中を支配したがるのは米英イスラエル系の勢力だけである。
 人類は米英の崩壊を転機に、200年前の産業革命以来続いてきた欧米中心の世界体制を卒業し、多極型の新体制への大転換を開始している。米英が得意とした金融の大儲けは消え、代わりに日本や中国が得意とする製造業が、世界の経済成長の柱に戻る。長期的には、世界の多極化は日本にとって良いことだ。また、米欧よりも中国や朝鮮半島などの近隣諸国との交流が重要になる。
 戦後の日本人は対米従属に慣らされ、世界の本質的な構造が見えなくなり、思考が内向的だ。マスコミも本質を見ない報道に終始している。だが日本人は、対米従属をやめざるを得なくなった後は、自律的に世界とつき合わねばならなくなる。日本人は今後、米国のくびきから解かれ、思考のダイナミズムを再獲得できる絶好の機会を得る。日本で新たな動きが起きるなら、それは日本の中心である東京から始まることになる。まずは世界で何が起きているかを深くとらえ、世界システムの構造的な大転換を見据えることが大事だ。

自作自演のドル延命策

 FRBは昨年末、米国債を買う新構想を発表した。表向き、FRBは米政府から自立した機関で、国債購入は不正ではない。米政府が無限に財政赤字を拡大しても、ドルを発行する中央銀行であるFRBが紙幣の輪転機を回すだけで、売れ残りの国債をすべて消化できる寸法だ。しかし、実際にはFRBは米国家の一部だ。FRBの国債購入は米政府の自作自演劇で、米国債の破綻を延期するだけだ。いずれ起きるドルの信用失墜の顕在化は、いっそうひどいものになる。

米国の金融対策が失敗ばかりな理由

 失策を続け、金融恐慌を悪化させたポールソン財務長官は、米投資銀行のゴールドマン・サックス(GS)の経営トップから転身した。GS社は「BRICなど新興国の成長によって、2020年に世界の中産階級は20億人になる」との予測を発表し、世界の多極化で儲けている。BRICという言葉を発案したのもGS社だ。米金融資本家の中には、金融危機を米国の覇権崩壊につなげ、多極化を誘発する勢力がいると疑われる。昔から、欧米の金融資本家は国家を超えた存在である。


覇権と世界システム

 覇権とは、他国に対し、植民地支配など直接支配ではなく、間接的な方法で影響力を持つことだ。この200年、最強の覇権国が世界を主導し、最強国の通貨が世界的に貿易決済や富の備蓄手段として使われてきたのが、世界システムである。最強の覇権国は、19世紀初頭から第一次世界大戦までは英国で、二度の大戦間の混乱を経た後、米国に交代した。英国は、二度の大戦で衰退した後も、米国の世界戦略を自国好みに変質させることで黒幕的な覇権国として存続することを目指し、米国の軍事産業など(軍産複合体)と結託し、1947年から冷戦を誘発した。英国の世界戦略は、ユーラシア内部の大国であるドイツ、ロシア、中国、アラブ、イランなどを封じ込めて自国の優位を保つ地政学型だが、米国のもともとの世界戦略は、欧州、ロシア、中国など、各地の大国が並び立ち、協調体制で世界を運営する多極型だった。北米大陸という、世界文明の中心地であるユーラシアとは別の大陸に位置する米国は、多極型を好み、国連安保理の常任理事国は多極型に作られたが、その後の冷戦によって、米国の戦略はロシアや中国を敵視する英国型に変更させられた。冷戦後、2001年の911テロ事件によって軍産複合体は「テロ戦争」という地政学型の世界体制の復活を目指したが、ブッシュ政権が過激な戦略を失敗させ、世界の体制は多極型に転換し始めている。

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