健康 メンタルヘルス講座(33)
自殺を防ぐ
A自殺にいたる心理
自殺は自分で選んだ道ではない、と前回お話しましたが、このことは労働者の過労自殺問題によって社会的にも裏づけられています。以前は、自殺は本人の問題とされ労働災害としての認定はまずありませんでした。しかし近年、過重労働が心身に与える影響が重要視され始め、疲労がメンタルヘルス問題を引き起こし自殺のリスクを高めるとする、過労自殺という概念が誕生し、ここ数年で労働災害として認定件数が急増しています。
この、自殺をする心理とはどういったものでしょう。高橋氏によると、(1)極度の孤立感(この世で自分は一人きりで、誰も助けてくれるはずがない)、(2)無価値感(自分には生きている意味がない)、(3)強度の怒り(窮状をもたらす他者もしくは自己に対する怒り)、(4)窮状が永遠に続くという確信(どんな努力をしても報われることはない)、(5)心理的視野狭窄(今のつらい状況を解決する唯一の手段が自殺である)、(6)諦め(何が起きても、どうなってもかまわない)、(7)全能の幻想(自分にもできることがある、それが自殺だ)が自殺者に共通する心理だとしています。
このような心理状態をもたらす最大の原因が、うつ病をはじめとするメンタルヘルス関連疾患であることは言うまでもありません。また驚くべきことに、うつ病の重症度と自殺にはそれほど関連はない、それどころか就労可能である軽症のうつ病のほうが自殺する可能性が高いということも指摘されています。自殺予防には、出勤可能な比較的軽症な時期から対策を考えなければならず、組織的な取り組みとしてのメンタルヘルス対策が求められます。
しかし、メンタルヘルス問題で悩んでいる方すべてが、自殺をするというわけではありません。医学的には、このような場合に自殺をする危険性が高いとされる「リスクファクター」が存在し、診療する上で重要視されています。次号では、このリスクファクターについてふれたいと思います。
参考図書:新訂増補 自殺の危険 高橋祥友著.金剛出版.2006
(産業医の立場から 宇佐見和哉)
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