健康 メンタルヘルス講座(25)
ストレスマネジメント
Aストレスが及ぼす心身への影響(2)
「鈍感な脳」
前回は神経伝達物質(以下伝達物質)の存在についてお話いたしました。
伝達物質の微妙な“ズレ”は、脳よりも全身の器官のほうが早く感じ取るので、ストレス反応として、まず胃痛、下痢など消化器症状が出現したり、立ちくらみをする、動悸を感じるなど身体症状から始まり、徐々に意欲の低下、慢性的な落ち込みなどが遅れて出現してくることも少なくありません。このような状態が持続すると「もう人生には価値がない」とか、「考えようとする意欲がわかない」といった考えを持つようになり、自分自身の存在を否定的にとらえるようになってしまいます。
このように、伝達物質の分泌に異常をきたしている状態がうつ病です。この状態では考えの偏りが目立ち、正しい治療を行わないと状態は悪くなるばかりです。
現在のうつ病における治療薬は伝達物質をターゲットに開発されています。治療開始初期には、やはり微妙な伝達物質の”ズレ”に反応してしまう、消化器症状(下痢、吐き気など)が出現してしまいます。この副作用のため内服を中断されてしまう患者さんも少なくありません。脳は鈍感ですから、作用するまでには内服開始後2〜4週間程度かかってしまいます。この頃には全身の器官は”ズレ”に適応しているので副作用は軽減しています。
このようにうつ病は誰にでもかかる可能性があるのです。
よく「いったん治療を開始すると薬はやめられないのでしょうか?」といった質問を受けます。
答えはNoです。治療が開始され、伝達物質の脳内濃度が上昇すれば自分のおかれている状況を正確に判断し、徐々に前向きな考えを生み出すことができるようになります。ただ調子がよくなったからといって服薬をすぐにやめてはいけません。この理由は分泌が不安定なままで薬をやめてしまうと、わずかなストレスで再発してしまうためです。これを防ぐために、ある一定期間は服薬を続ける必要があり、中止するときも主治医からの助言の下、少しずつ減量する必要があるのです。
(産業医の立場から 宇佐見和哉)
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